2019年5月21日 更新

日本が進めるAI画像診断支援②

大量に集められた医用画像データベースを用いて、いかに効率的に解析可能な教師データを作成していくか、またAIをどのように臨床業務のワークフローに組み入れていくか、がAI画像診断支援の実装に向けた今後の大きな課題です。今回は、AI画像診断支援の実装に向けた具体的な取り組みについて紹介します。

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前回、医用画像の大規模なナショナルデータベース(Japan medical image database : J-MID)を構築するプロジェクトを紹介しました。それらのデータをAIに学習させるには、アノテーション(病変の領域の指定)をつけた教師データ作成が必要です。良質なアノテーション付き教師データを効率的に作成し、AI画像診断支援の実装を進めていくには、病院と企業との協同とそれを可能にする仕組みが必要です。

アノテーションの標準化

 医用画像ナショナルデータベースは、画像はDICOM形式、診断レポートはXML形式と、それぞれ共通のフォーマットで集められています。しかし一方で、アノテーションの座標情報は各施設や各タスクによってバラバラのフォーマットになっています。

 これを解決していくためには、各施設で共通のアノテーションツールを用いて教師データを作成していく必要があります。現在、LPixel社が日本医学放射線学会からアノテーションツールの開発を任され、全国の主要大学病院等に導入が進められています。アノテーションデータのフォーマットは、診断レポートと同じXML形式を採用し、レポートと同じ仕組みで匿名化と収集が行われます。
LPixel社が開発するアノテーションツール

LPixel社が開発するアノテーションツール

教師データ作成におけるアノテーションのデータ形式や座標情報を各施設や各タスクで統一すべく、日本医学放射線学会からLPixel社に開発が依頼されたアノテーションツールが、主要大学病院等に導入され始めている。
via LPixel社より提供

病院と企業とのAI共同開発

 医用画像ナショナルデータベースの構築が進められてきた背景には、大学病院等とAI開発メーカーがAI診断支援システムの実用化に向けて協同していく構想が当然あると考えられます。

 データベースに集められた教師データを用いて、メーカーは診断支援AIの学習と精度評価を行い、データの収集や教師データ作成に参画している各病院は、メーカーが開発したAIの使用感の評価を行います。その後、厚労省による認可を経て、製品化・市販へと進んでいく、という構想です。

 この構想の実現のために、2018年5月に次世代医療基盤法が施行されました。この法律により、メーカーへのデータ提供のためのシステム構築に向けて、医療機関が持つ医療情報の収集と匿名化を行う「認定匿名加工情報作成事業者」(認定事業者)の認定が実行される予定でした。しかし、未だ認定事業者が確定せず、選定中となっています。

 そんな中、京都大学が、医療情報加工料として企業から500万円を受け取り、3000項目分の加工データを企業に提供する、という画期的な仕組みを発信し、国に承認されました。現状では、医用画像ナショナルデータベースは、大学の共同利用機関であるNIIが管理していますし、多施設から集められていますので、すぐにメーカーに売られる可能性は低いと思いますが、今後、メーカーへのデータ提供の方法がどうなっていくのかが注目されます。

診断レポートの自動化と標準化

 現状では「世界最高精度」のAIであっても明らかな偽陽性・偽陰性が含まれるため、放射線科医がもう一度AIの解析結果をチェックする必要があります。このため、AIの結果を単に表示するだけでは、放射線科医の負担の軽減には不十分な可能性があります。
 
 放射線科医の負担の軽減には、キー画像(病変を示すマーキングを含んだ画像)の添付を含めた診断レポート作成の自動化が有効であると考えられます。診断レポートに記載すべき内容は、「病変の位置、大きさ、転移の有無」など、概ね共通しており、レポート作成を自動化できる部分は大いにあると言えます。また、レポートの記載方法の標準化は、今後AIに学習させる教師データの質を向上させる為にも重要であると共に、診断を依頼する他の診療科の医師からの信頼度の向上にもつながるでしょう。

 例えば、MNES社では、診断レポートの自動化と標準化の取り組みを進めています。病名や症状のキーワード検索により、過去の類似症例の診断レポートがキー画像付きで提示されます。診断レポートは、要素ごとに分割して表示され、読影医が今回の症例にも当てはまる要素を選択することによって、半自動的に診断レポートが生成されます。これにより、読影医師間の表現のばらつきの少ない均質な診断レポートが生成されると同時に、経験の少ない医師のサポートにもなると考えられます。
MNES社の診断レポートの自動化と標準化に向けた取り組み

MNES社の診断レポートの自動化と標準化に向けた取り組み

病名や症状のキーワード検索により、過去の類似症例の診断レポートが提示され、該当箇所を読影医が選択することによって、半自動的に診断レポートが生成される。これにより、読影医師間の表現のばらつきの少ない均質な診断レポートが生成されると同時に、経験の少ない医師のサポートにもなる。
via MNES社より提供

診断支援AIプラットフォーム

 皮膚科や眼科の局所的な病変の判別であれば、その病変に特化したAIモデルを適用することができます。また、単純X線写真では肺、マンモグラフィーでは乳腺のように、画像に写っている臓器が限定されている場合は、その臓器に特化した1つのAIを用いることができます。
 
 一方、腹部画像のように、肝臓、膵臓、腎臓など複数の臓器が含まれている場合には、まず臓器を抽出する必要があり、それぞれの臓器に特化した複数のAIを稼働する必要があります。

 現状、1つのメーカーが様々な部位のAIを開発することは不可能なので、複数のAIが稼働できる、メーカーが相互乗り入れ可能なプラットフォームを標準化していく必要があります。現在、既にいくつかのプラットフォームがあり、そのほとんどは、どの企業が開発したAIでも動かせる事を表明しています。ただ、AIの診断結果を診断レポートに反映させる仕組みまで備えているプラットフォームはまだありません。

 今後、日常の臨床業務のワークフローの中で診断支援AIを無理なく実装していくために、それぞれの臓器に特化した複数のメーカーのAIを同時に動かすことができ、またAIの診断結果を診断レポートに反映させる仕組みを備えているプラットフォームの整備が進んでいくであろうと考えられます。 


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この内容は、2019年4月12日に開催された日本医学放射線学会の特別企画「日本医学放射線学会が進める人工知能(AI)を用いた画像診断〜画像診断ナショナルデータベースの活用〜」を参考にしたものです。
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