2019年4月23日 更新

日本が進めるAI画像診断支援①

AIによる医用画像診断支援を進めていくためには、大量の医用画像データが必要です。現在、日本の学会や研究所が中心となって、大規模な医用画像データベースの構築が進んでいます。今回は、その大規模データベース構築の現状について紹介します。

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 現在、AIによる医用画像解析の研究開発や画像診断支援を進めていくために、医用画像のナショナルデータベースを構築するプロジェクト(Japan medical image database : J-MID)が進んでいます。国立情報学研究所(NII)と日本医療研究開発機構(AMED)とAMEDが支援する医学関連学会(6学会)が連携して進めています。

クラウドを用いた医用画像データ共有・解析

 中心的役割を担っているのは、国立情報学研究所(NII)であり、医用画像ビッグデータの収集や解析を可能にするクラウド基盤を整備しています。NIIは、各種学会と連携することにより、匿名化された大量の医用画像(診断レポート付き)をクラウド上に集めています。

 現在、日本病理学会、日本医学放射線学会、日本消化器内視鏡学会、日本眼科学会、日本皮膚科学会、日本超音波医学会の6つの学会ごとに、それぞれに所属している大学病院等から医用画像データが集められ、クラウド上で共有されています。このような学会ごとに収集されたデータが一括して共有・管理されているシステムは、世界的に見ても初めてです。

 NIIは、SINET5という全国850以上の大学や研究機関をつなぐ学術専用のネットワークを提供しており、これを通して医用画像データが収集・共有されています。このネットワークは、インターネットと完全に切り離されたVPNサービスであるため、安全性が担保されています。

 また、クラウド上で解析を行うことも可能で、高速なDeep learning処理が可能なGPUサーバー(NVIDIA Tesla P100)が提供されています。Deep learningのプログラムを実行する際は、クラウド基盤上のデータを持ち出さない規程になっており、クラウド上のGPUを用いることになります。現在、これらのデータを用いたAIモデル開発を担っているのは、NIIとNIIから委託された東京大、名古屋大、九州大、中京大、奈良先端科学技術大学院大学の研究者です。
クラウドによる医用画像データ共有・解析

クラウドによる医用画像データ共有・解析

各種学会から集められた匿名化された大量の医用画像が、クラウド上で共有され、各画像解析研究者は、クラウド上に収集されたデータと提供されている解析環境を自由に利用することが可能。

収集された医用画像データの活用

 2019年4月現在、収集された医用画像のほとんどは日本医学放射線医学会からのもので、約3000万枚の画像が集められています。2番目が日本消化器内視鏡学会からの約4万枚ですから、圧倒的に放射線画像がメインであることが分かります。また、集められたデータは、撮影された画像の部位やスライス厚などで検索可能になっており、研究開発のタスクに応じて容易に利用できるようになっています。

 ただ、最も問題なのは、教師データ作成です。教師データの作成は、臨床業務の忙しい医師にとっては、負担がかなり大きく、いかに医師への負担を減らしながら効率よく教師データを作るか、が重要です。一度に教師データを作成するのは難しいので、パイロット的に少数の教師データを医師に作成してもらい、それを用いて学習させたAIの解析結果を見ながら、作成する教師データの量を徐々に増やして行く、という方針が取られています。

 医師は臨床の現場を踏まえてAIが果たすべきタスクを設定し、画像解析の研究者は高い精度でタスクが実行されるように、教師データとして必要な情報を医師に提案します。このような工程を繰り返し、お互いのアウトプットをフィードバックしながら精度を改善していく必要があります。

 また、教師データの正解情報には、ラベリング(画像に疾患名を付ける)とアノテーション(画像上で病変の領域を指定する)の2種類があります。例えば、皮膚疾患の場合、皮膚病変の画像に疾患名をつける(ラベリング)だけで学習は可能ですが、病理画像やCT画像の場合、病変の領域を「塗る」などして指定する(アノテーション)必要があります。もちろん、医師にとっては、アノテーション作業の方がラベリングよりもより難しく、手間もかかることは言うまでもありません。集められたデータからいかに効率的に解析可能な教師データを作成していくかが、AI画像診断支援の実装に向けた今後の大きな課題だと考えられます。

今回は、医用画像のナショナルデータベースを構築するプロジェクトについて紹介しました。
順調にデータが集められ、それらのデータを用いたAIモデルの研究開発も行われ始めています。
しかし、このデータベースの最終目的は、AI画像診断支援の「実装」であるはずです。

次回は、最終目的である、AI画像診断支援の「実装」に向けた、具体的な取り組みについて紹介します。


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この内容は、2019年4月12日に開催された日本医学放射線学会の特別企画「日本医学放射線学会が進める人工知能(AI)を用いた画像診断〜画像診断ナショナルデータベースの活用〜」を参考にしたものです。
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