ディープラーニングの技術を応用した放射線診断ソフトウェアが豪州で展開

米国サンフランシスコの医療系ベンチャーEnliticは、豪州のCapitol Healthと提携することを10月末に発表した。Capitol Health社の展開するクリニックで、Enlitic社の開発したソフトウェアを放射線診断に利用するというものだ。

Enlitic社はMIT Technology Reviewで'50 Smartest Companies'の1つに選ばれた医療系ベンチャーであり、全世界に半分以下のコストで10倍以上正確な診断を提供することをミッションとして、画像診断分野の研究開発に取り組んでいる。

Enlitic

Capitol Healthは豪州で急速に成長している画像診断に特化した会社で、CT、MRIから歯科撮影、核医学、骨密度検査、超音波など分野は多岐にわたる。

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この2社が提携して、より画像診断に関する分野の取り組みを促進していくという。

プレスリリースで具体的に取り上げているのは、肺癌と骨折である。これらは放射線診断部門でも数多く撮影され、画像データの数量も多い為、ディープラーニングが効果的に発揮されると考えられる。

肺癌は進行期になってしまうと80〜90%の患者が亡くなってしまう為、早期に見つけることで生存率が10倍改善するため、早期診断が重要である。Enliticの開発したディープラーニングを用いれば、初見での診断は医師と比較して50%以上も正確であった。偽陰性、偽陽性を減らすことで、健常者に不要な検査を実施する必要が無くなり、早期がん患者の命をより多く救うことが出来る。
EnliticはNIH(National Institute of Health:アメリカ国立衛生研究所)が出資している肺の画像データベースコンソーシアムのデータベースを活用することで精度の高いシステムを構築している。

また、骨折に関する放射線画像もデータとしては沢山蓄積されているが、手首など骨折部位の判別が非常に難しい分野もあり、見落としによって、いびつな骨癒合をきたしているケースもあった。

WIRED

こうした骨折は4000×4000pixelのX線画像の中で4x4pixel程度の違いを判別しなければならず、LCDモニタ上で調べるには限界があった。Enliticの開発したシステムではROCAUC((受信者動作特性曲線 下位面積)に換算して97%を達成し、熟練した放射線科医(ROCAUC85%以上)より3倍以上、従来のモニタ上での診断(ROCAUC71%)の何倍も精度が高かったという。

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WIREDの記事によれば、これらのシステムはあくまで診断の支援として用いられるようだ。ソフトウェア導入により、現場での作業が迅速化され、ミスが減少する。現場のワークフローを改善する形でシステムが貢献する。
放射線技師がPACSで転送した画像の対象が正しいかどうかをソフトウェアでチェックする。例えば、左ひざとタグ付けされた画像が、実際は右ひざの画像であったりしないかどうかだ。その上で、画像に異常がないかをソフトウェアで調べ、異常が検出された場合は、優先度を高めて専門医に画像が転送される。担当医の決定や、電子カルテに記入する文章の定型も自動生成してくれるという。

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医療スタッフも人間なので、業務の中でミスをおかすこともある。放射線技師が検像端末から転送する画像を間違えていたり、医師が膨大な画像を読影していて見落としをすることもある。システムの側に助けてもらうことで、見落としを減らせれば、医療サービス自体の改善にもつながるだろう。



豪州では遠隔診断に関する分野で進んでおり、世界に先駆けていち早くシステムを導入することになった。今後オーストラリアだけでなくアジアにも展開していくと言う。
<参考資料>

Enlitic and Capitol Health Announce Global Partnership(Enlitic)

ディープラーニングが放射線科医のミスをカヴァーするようになる(WIRED 2015/10/31)

人の助けがあってこそ、人工知能は人を助けられる(WIRED 2015/10/28)