伝わる研究発表セミナー(1/3)「Adobe画像処理セミナー」

4月29日昭和の日に、アドビシステム株式会社(以下Adobe)とエルピクセル株式会社(以下Lpixel)が共催で「伝わる研究発表セミナー」と題したイベントを開催した。この会は主にこれから理系分野の研究活動を行う研究者、学生、院生に向けた内容で、Adobeのソフトウェアを用いた画像処理の方法、分かり易い研究スライドの作り方を紹介した。その後、実際の研究者によるスライド発表を行い、スライドに関する講評を頂いた。

目次

「伝わる研究発表セミナー」の趣旨

まずは本セミナーの主催であるLpixelの島原代表がセミナーの趣旨を説明。

正しく伝える為のデザインや画像処理の方法は重要である。いかにわかりやすく伝えるか、については海外、特にアメリカの大学では多くの教育の機会があるようだが、日本ではそもそも軽視されがちでアメリカほど伝え方の授業などない。これは文化の違いでもあるとも言えるが、結果として、海外と日本での研究の見せ方のレベルに大きな差を感じるのは事実である。


普段エルピクセルでは研究の世界をより良くしたいという思いで技術を武器に研究室、メーカーさん向けにソフトウェアを開発し、研究の促進をお手伝いさせていただいている。それと同じ思いで、研究者の為にデザイン・画像処理について学ぶセミナーもあったら研究の世界をよりよくできるだろう、ということで今回開催の運びになった。

今回のイベントは以下の流れで進行する。


①Adobeの方から研究分野での効果的な画像処理方法について紹介する。
②片山なつさん「伝わるデザインの基本」と題して研究の世界の伝える技術を紹介する。
③最後に現役の大学研究者に研究発表と発表デザインの紹介をしてもらう。

「研究者のためのPhotoshop」伝わる研究発表セミナー

LPixelの湖城さん、Adobeの名久井さんがAdobe Photoshopを用いた画像処理に関する方法を紹介。


IllustratorとPhotoshopは、主にデジタル画像の加工や補正を行う、質感やデッサンを表現するソフトウェアとしても使われているが、研究者として画像処理のソフトウェアとしても利用することが出来る。


Photoshopは、いつでも元の画像に戻れる状態で編集を行い、かつ処理の記録を残すことが出来るのが特徴だ。画像の非破壊編集、ヒストリーログ、画像の重ね合わせなどを行うことが出来る。

何故画像処理が重要なのか?

最近のCell,Nature,Science誌の生命科学系論文における画像データの出現頻度として、
カメラ、明視野顕微鏡、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、電気泳動、CTなどが挙げられる。


大学院生になると、論文を読み始める方も多いと思う。そこで、自分の研究の為に
必要な画像を作るのにどうすればよいのか知っておくことが重要だ。


最初に撮像した画像(原画像)は何かしら実験に必要な情報だけが存在する訳ではない。そのまま
原画像を論文に貼付けるのは適切ではない。そこで、一連の画像処理を行うことが重要である。


例えば、葉緑体の研究において、撮影した原画像が条件によって、画像の明るさが左右で違いがあった。原画像が正しいと仮定すれば葉緑体の内容に違いがあるという仮説が立てられるが、実は装置の明るさムラによって明るさに違いが生まれていた。このように画像の特性を知り、適切な画像の処理を行うことが重要だ。


実験で得られる画像情報は撮像過程と解析過程のプロセスを経て、客観的な真実により近づけることが
重要である。画像の中で本当に重要な要素は限られている。

画像処理の基礎

ライフサイエンス分野では、細胞のタンパク質が光っている画像などをよく目にするかも知れない。画像一つとっても、モニタでデータを見せたり、紙で示すのに解像度やモニタの輝度などによっても変わってくる。

Photoshopの場合、ドキュメントのサイズを左下で確認することが出来る。全て必要な画像の情報(プロパティ)を見て、鮮明さ(dpi、bitなど)を調べることが出来る。

dpiは1インチにどれだけのpixelが入るのかを示す値。解像度は72dpiがモニタ用。300dpiが紙用なので、表示するメディアによって調整しよう。

photoshopはどうやって画像処理をしているのか?

photoshopはどうやって画像処理をしているのか?裏でピクセルごとの数値計算を行っている。
白いところが高い数値、黒いところを低い数値とみなし、コントラスト処理、ノイズ軽減などを施す。自分が見せたい情報によって同じ画像でも見せ方が全然違う。真ん中を見たいのか?ノイズを減らしたいのか?

因みに、蛍光顕微鏡で見る場合、1ピクセルのみ高い信号だとノイズであることが多いので、ノイズ軽減処理することが多い。

以下にいくつかの方法を紹介する。

①拡大・縮小+トリミング

大き過ぎる原画像を小さくする。
…dpiが小さいなら、必要なサイズまで落として、細かい情報を省く。

トリミング縦横回転など
…比率、幅・高さ。解像度などを一定の状態にしてトリミングをすることが出来る。
ドラッグすると、同じ形でサイズを調整することが出来る。また、回転ツールを選択して回転を行うことも出来る。

切り抜いたピクセルを削除を選択しなければ、元画像を残した状態で編集を修正したりすることも出来る。

②輝度、色調補正

レベル補正、トーンカーブをよく使うが、原画像に色調補正を行うとやり直しがきかなくなってしまう。

そこで、右のメニューから色調補正パネルを開き、レベル補正を行うと背景情報を保持した状態でレベル補正を被せることが出来る。画像補正が一つのレイヤーになっていて、レベル補正をダブルクリックすると修正することも出来るし、deleteキーで削除することも出来るので、修正に強い。

ヒストグラム:明るさの分布図。どのくらいの明るさのピクセルがどれくらいの数あるかを見て、画像のバランスを示す。顕微鏡画像のブラックな背景がある。細胞分裂をする細胞の染色体だけ取り出した教科書画像を見るとよく分かる。

③ヒストリーログ

紙で実験記録を残さなければいけない場合も多いと思う。特に糸で綴られたノートでしか許さないというような厳しい研究室もあるが、自動のヒストリーログを紙にプリントすると、これらの手間が省ける。

環境設定を見て、アプリケーションの設定を行うことが出来る。環境設定->一般->ヒストリーログをオン。(デフォルトはオフ)

ヒストリーログをメタデータ(xmlとか)テキストファイルなどに記録しておこう。
トリミング、回転・レベル補正を行い、psdファイルを保存すると、txtファイルでメモが自動で残る。
同じ処理をして欲しいという場合はバッジ処理を行うとよい。日本語でログを残すことが出来る。

今回の内容、補足資料をlp-techでも紹介しているので、是非ご覧頂きたい。

また、YouTubeにもAdobe Creative Stationという番組があるので、そちらも参考にして欲しい。
次回は、片山なつさんの発表「伝わるデザインの基本」について紹介する。

Illustrator編では、ポスターや紙面の編集について紹介しているので、こちらもアーカイブをご覧頂きたい。